この記事は12分で読めます
LTV/CACは、SaaS事業やサブスクリプション型ビジネスの中長期的な健全度を測るうえで欠かせない指標です。売上が伸びていても、LTV/CACが低いと将来のキャッシュフローは不安定になります。
本記事では、LTV/CACの定義や計算式、目安が「3以上」となる根拠、改善方法まで具体的に解説します。LTV/CACが「ユニットエコノミクス」と呼ばれる理由も確認していきましょう。
まずは、LTV/CAC(ユニットエコノミクス)の概要を解説します。

LTV/CACは、顧客1人あたりの生涯収益(LTV)を、その顧客を創出するためにかかったコスト(CAC)で割った比率です。「ユニットエコノミクス」とも呼ばれます。「ユニット(単位)あたりの経済性」、つまり顧客1人を単位として採算性をはかる考え方です。
LTV/CACの大きな特徴は、中長期的な事業の健全性がわかることです。事業全体の売上や利益ではなく、顧客1人単位での採算性を見ることで、ビジネスモデルそのものの持続可能性を評価できます。表面的な売上の増減に惑わされず、中長期の事業の実態を把握するために使われます。
特にSaaS事業は、消費者にサービスを継続利用してもらうのが特徴のビジネスモデルです。買い切り型の商品・サービスとは異なり、開発などにかかった初期費用を回収するまでには時間がかかるため、中長期的な販売プランをもとに事業を進める必要があります。そのため、LTV/CACが重要な指標になります。
例えば、LTVが30万円、CACが10万円であれば、LTV/CAC = 3です。顧客1人を創出するために投じたコストの3倍の収益が中長期的に得られることを示しています。
LTV/CACを構成する2つの指標である「LTV(顧客生涯価値)」と「CAC(顧客創出コスト)」の意味・計算式を確認しておきましょう。
LTVとは、1人または1社の顧客が自社と取引を始めてから終了するまでにもたらす価値を表す指標のことです。「Life Time Value」の略語で、日本語では「顧客生涯価値」と訳されます。LTVが高い顧客が多いほど中長期的な企業の収益が安定します。
<LTVの計算式>
サブスクリプションなどの継続利用が前提となるサービスの場合は、チャーンレート(解約率)を考慮したうえでLTVを計算します。
CACとは、新規顧客を1人(1社)創出するのにかかる総コストを表す指標のことです。「Customer Acquisition Cost」の略語で、「顧客創出コスト」と訳されます。
<CACの計算式>
CACには、営業コストだけでなく、広告宣伝費・人件費・交通費など、顧客創出に関わるすべての費用が含まれます。
一般的に、LTV/CAC(LTV ÷ CAC)は「3」以上が目安とされています。
顧客創出コストの回収期間は、「CAC ÷ 1顧客あたりの平均月間売上」により算出される指標です。 LTV/CACを式変形すると、「1 ÷(チャーンレート × 顧客創出コストの回収期間)」となります。 一般にSaaS事業で理想とされる顧客創出コストの回収期間は12か月といわれているため、その基準をもとに考えてみましょう。
LTV/CACを「3」とした場合、チャーンレートは「1 ÷ 36 = 2.777%」となります。 これは、BtoBのSaaS事業で良好な状態とされる「チャーンレートが3%未満」を満たしています。
このように、LTV/CACが3以上であれば、SaaS事業において理想とされる顧客創出コストの回収期間とチャーンレートの水準を満たせることがわかります。
| 数値 | 状態 | 対応の方向性 |
|---|---|---|
|
1未満 |
創出コストを回収できない |
事業モデルの見直しが必要 |
|
1〜3 |
回収はできるが成長余力が薄い |
LTV向上またはCAC削減を優先 |
|
3以上 |
健全な数値でSaaS事業の一般的な目安 |
維持しながら成長投資を検討 |
|
5以上 |
効率は高いが投資不足の可能性も |
CAC拡大による顧客創出の加速を検討 |
ただし、数値が高すぎても注意が必要です。LTV/CACが5を超えるような高い水準では、新規顧客創出への投資が不足している可能性があります。
数値の大小だけでなく、その背景にある要因を読み取ることが重要です。
LTV/CACを算出することで、事業の採算性を複数の角度から把握できます。そのため、CACの回収時期や将来のキャッシュフロー、マーケティング・カスタマーサービス施策のどこに課題があるかを特定するための起点として活用されています。
ユニットエコノミクスの計算によって、CACが回収されるタイミング(損益分岐点)が把握できます。
例えば、サブスクリプションサービスのLTV、CAC、平均継続期間が次の通りだとしましょう。
この場合、1人の顧客は18か月で12万円の利益を生み出します。
上の式で計算すると、CAC回収に必要な期間は約9か月です。
つまり、この例では9か月を超えて契約が続くと、その後は利益が積み上がり、逆に9か月以内に解約されると赤字になることがわかります。
表面的には売上が伸びているように見える事業でも、LTV/CACが1程度しかない場合は注意が必要です。CACの回収が難しく、将来的なキャッシュフローが不安定になる可能性があるためです。
LTV/CACを指標として用いれば、短期的な利益に惑わされず、長期的な事業の健全性や成長性を見極めることが可能です。
LTV/CACを指標とすると、マーケティングの課題が見つかりやすくなることもメリットのひとつです。
LTV/CACを算出したら、LTVとCACのどちらに、より大きな課題があるのかを確認しましょう。LTVが低い場合は、解約率を下げるための施策などが有効です。CACが高い場合は、広告戦略の見直しや人件費がかかりすぎている施策を特定するなどの対策が考えられます。
LTV/CACを継続的にモニタリングすることで、変化があった場合にいち早く気づくことが可能です。
LTV/CACを改善するアプローチは、「LTVを高めるか」もしくは「CACを抑えるか」のどちらかです。課題を特定したうえで施策を選ぶことが、効率的な改善につながります。
LTVは「顧客単価 × 購買頻度 × 継続期間」で決まります。それぞれの数値を改善するための施策を見ていきましょう。
LTVの計算式において、解約率(チャーンレート)の改善は最もインパクトが大きい変数です。チャーンレートがわずかに下がるだけでも、LTVは大きく伸びます。
チャーンレートを下げるには、カスタマーサービスの業務を改善し、顧客が継続して使い続けたいと思えるサービス体験を作ることが大切です。具体的には、アフターサポートの充実やオンボーディングの質の向上、定期的なサクセスレビューの実施などが有効な対策になります。
カスタマーサービスの質を高めるうえで、近年注目されているのが生成AIの活用です。「AIを導入すると対応の温度感が失われる」という懸念を持つ企業も少なくありませんが、HubSpotが実施した「カスタマーサービスに関する意識・実態調査 2026」では、それとは逆の結果が示されています。

生成AIを活用しているCS担当者のうち55.6% が「1件あたりの対応時間が改善した」と回答し、51.4% が「顧客対応の品質(正確性・適切さ)が改善した」と回答しました。効率化と品質向上が同時に進んでいることが示されています。AIは処理量を増やすためのツールではなく、対応の質を高めるパートナーとして機能しているといえます。HubSpotでは、質問への回答や有望リードの見極め、チケットの解決を自動で実行する顧客対応エージェントを提供しています。チームが対応を引き継ぐタイミングも自由に設定可能です。
ただし、こうした効果はツールを導入するだけでは生まれません。AIを活用できる文化・仕組みを組織として整えることが、カスタマーサービス品質の向上と顧客継続率の改善につながります。
顧客単価を高めることも、LTVの向上に寄与します。顧客単価を高めるには、より上位の商品やサービスを顧客に提案する「アップセル」や、関連する商品やサービスを提案する「クロスセル」が有効です。その際に重要なのは、顧客の状況を正確に把握したうえで提案することです。

HubSpot調査では、生成AIを活用しているカスタマーサービス担当者が効率化で生まれた時間を「顧客一人ひとりに合わせた丁寧な対応」(34% )や「複雑・高度な問い合わせへの対応」(30% )に充てていることが示されています。
AIが定型業務を担うことで、担当者は顧客の課題を深く理解する時間を確保できます。その結果、顧客にとって本当に価値のあるアップセル・クロスセルの提案が可能になります。自社の利益ではなく顧客の課題解決を起点に提案を設計することが、単価向上と長期的な信頼構築を同時に実現するうえで有効な方法です。
継続期間の延長や顧客単価の向上を目指すうえで共通して求められるのは、顧客の状況をリアルタイムで把握し、適切なタイミングで最適な対応ができる体制構築です。HubSpotのService Hubは、CRMと一体化したAI搭載のカスタマーサービスプラットフォームとして、この体制を組織全体で構築できるよう設計されています。
購買頻度を増やすには、例えば次のような方法が考えられます。
このときも、自社の利益最大化のみを考えるのではなく、「顧客に満足してもらうにはどうすれば良いのか」と顧客視点を持つことを意識しましょう。
CACを抑えるアプローチは、広告効率の改善・CVRの向上・ツール活用による業務効率化の3つが基本です。単にコストを削るのではなく、同じコストでより多くの顧客を創出できる状態を作ることを意識しましょう。
コストが高い広告媒体や広告手法のうち、費用対効果が低いものは戦略を見直しましょう。それにより、CACを下げることができます。
具体的に確認する点は、次のような項目です。
広告と並行して、検索エンジンからの自然流入を目指すSEO戦略も有効です。広告のような即効性はありませんが、中長期的な流入が期待できます。
CVRが高まると、同じコストで創出できる顧客数が増えます。結果的に1人あたりの新規顧客を創出するコストの抑制につながるでしょう。
CVRを上げるには、次のような方法があります。
CVにいたるまでの障壁をできるだけ取り除くと、CVRの向上につながります。例えば、せっかく集客できてもWebページ内で購入ボタンが見つけられなければ、見込み客が購入を諦めてしまうこともあるかもしれません。CVまでの動線や購入プロセスをわかりやすくして、CVR向上につなげましょう。
CRM(顧客関係管理)ツールやSFA(営業支援システム)、MA(マーケティングオートメーション)ツールなどのデジタルツールによる業務の効率化は、CACの削減につながります。CACには、顧客管理やマーケティング、営業などに関連する人件費も含まれるためです。
具体的には、CRMによるリード管理の自動化でフォローにかかる工数を減らしたり、MAを使ってメール配信や見込み客のスコアリングを自動化したりすることで、少ない人員で同じ成果を出せる体制を作れます。また、チャネルごとに広告の費用対効果を可視化できれば、CACが高い施策への投資に集中することも可能です。
HubSpotのCRMは無料で利用を始められるため、初期コストを抑えながら顧客管理の効率化を実現できます。Sales HubやMarketing Hubと連携することで、蓄積された顧客データをマーケティング・営業活動に横断的に活用でき、組織全体のCAC削減につなげられます。
LTV/CACは、SaaS事業の中長期的な健全性を顧客単位で測る指標です。目安である「3以上」を維持するには、「LTVを高める」「CACを抑える」の両輪で取り組むことが基本です。
チャーンレートのわずかな改善がLTVに大きく影響する構造上、CS部門の取り組みはLTV/CAC改善に直結します。顧客の状況をリアルタイムで把握し、適切なタイミングで対応できる体制を整えることが、LTV向上の土台となります。
HubSpotのService Hubは、CRMと一体化したAI搭載のカスタマーサービスソフトウェアです。顧客データを一元管理しながら解約防止とアップセル機会の特定を行えるほか、顧客対応エージェントによる業務効率化は対応工数の削減にもつながります。無料プランから利用を始め、事業の成長に合わせて段階的に活用範囲を広げることが可能です。
LTV/CACを使うことで、顧客単位の中長期採算性を正確に把握できるためです。SaaSは初期投資の回収に時間がかかる構造のため、短期の売上だけでは事業の健全性を判断できません。
はい、活用できます。サブスクリプション型や、顧客が継続的にリピートするビジネスモデルであれば特に有効です。ただし、単発購入がメインのビジネスでは「継続期間」の概念が異なるため、指標の定義や計算式をそのビジネスモデルに合わせて調整する必要があります。
まずはLTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客創出コスト)のどちらが原因かを特定しましょう。LTVが低い場合はチャーンレートの改善やアップセル施策を、CACが高い場合は広告宣伝費の最適化や営業プロセスの効率化を優先して検討します。原因を切り分けることが、効率的な改善の第一歩です。
HubSpotの無料のカスタマーサービスソフトウェアを使用して、サポート体制の拡大と顧客維持を促進
この記事をシェアする