カスタマーサクセスにおけるオンボーディングとは、自社商品・サービスの導入直後の顧客に対し、伴走的に支援することを意味します。
商品やサービスを使い始めたばかりの段階の顧客は、操作性や使い方などに疑問が生じやすい傾向にあります。しかし、この状態を放置すると、顧客は商品・サービスに価値を感じなくなり、解約リスクが高まるでしょう。結果的に自社の売上低下が懸念されます。
オンボーディングは、課題を抱えやすい導入段階の顧客に寄り添い、課題を解消することで、商品やサービスの価値を実感してもらうために実施します。
本記事では、カスタマーサクセスにおけるオンボーディングの概要や重要性、具体的な手法や実施手順、成功事例を解説します。
そもそもオンボーディングとは、乗り物に搭乗する「on board」に由来する言葉です。ビジネスの世界では、新たに組織に加入した従業員に定着してもらうための取り組みを指します。
カスタマーサクセスにおけるオンボーディングの対象は、従業員ではなく顧客です。自社の商品やサービスを導入した顧客がスムーズに利用できるように企業側から支援を行います。
なお、カスタマーサクセスの実現には、顧客それぞれの状況に応じた支援を行います。顧客の現状を把握するのに有用なのが「顧客ライフサイクル」です。では、顧客ライフサイクルでは、「導入期・運用期・拡大期・解約期」の4つのフェーズに分かれます。オンボーディングは、このうちの導入期にあたります。
導入期は、商品やサービスの使い方がわかりにくく、顧客からの不満や課題が発生しやすい時期です。オンボーディングにより顧客の課題を解決すれば、顧客は早い段階で商品・サービスの価値を実感できます。結果として、顧客満足度が向上し、解約率の低下が期待できます。
カスタマーサクセスでオンボーディングが重要とされるのは、主に次の2つの理由からです。
オンボーディングがカスタマーサクセスにおいて重要とされるのは、カスタマーサクセスの起点となるからです。
先述の通り、顧客ライフサイクルには「導入期・運用期・拡大期・解約期」の4フェーズがあります。導入期でオンボーディング施策により顧客満足度を向上できれば、顧客はさらに利用を続けるでしょう。つまり、次に続く運用期・拡大期へとスムーズに移行できます。運用期では解約率の減少が、拡大期ではアップセル・クロスセル率の向上が期待でき、LTV(顧客生涯価値)の底上げにつながります。
オンボーディングはカスタマーサクセスの起点として、自社の商品やサービスが顧客に定着するかを決定する要素であるため、特にリソースを割いて注力する必要があるでしょう。
オンボーディングは、解約を回避できる側面でも重要です。なぜなら、商品・サービスの使い方や初期設定などを支援することで課題を解消することで継続利用の可能性が高まるからです。
特に、サブスクリプションモデルを採用するビジネスでは早期の解約は売上に大きく響きます。オンボーディングによっていかに顧客をつなぎとめるかが重要です。
カスタマーサクセスにおけるオンボーディングの手法には、ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの3種類があり、これらはタッチモデルと呼ばれます。各手法の特徴を理解して、顧客の属性やニーズに応じた施策を実施しましょう。
ハイタッチは、担当者と顧客が1対1でサポートを行う手法です。顧客それぞれに手厚いサポートを行うため、満足度が向上しやすいのが特徴です。
ハイタッチの主な施策は次の通りです。
複数の顧客をまとめてサポートするロータッチに比べ、ハイタッチはコストが高額になりやすいのが難点です。状況に応じてロータッチを組み合わせて実施しましょう。
ロータッチは、担当者と顧客が1対多数の関係でサポートを行う手法です。1人の担当者が複数の顧客にアプローチするため、費用対効果に優れています。
ロータッチの主な施策は、セミナー・勉強会です。複数の顧客に対して同じ情報を発信できるため、少ない人員で効率良くオンボーディングを実行できます。
テックタッチは、担当者による直接的なアプローチではなく、デジタル技術を使ってカスタマーサクセスを推進する手法です。
テックタッチの主な施策は次の通りです。
テックタッチによって顧客が自身の力で課題を解決できる状態を「セルフオンボーディング」といいます。セルフオンボーディングを進めることで、企業はLTVの向上につながるハイタッチ施策に注力したり、業務効率を高めたりできるため、カスタマーサクセス全体の生産性向上が可能になります。
カスタマーサクセスのオンボーディングは次の手順で進めます。
手順ごとのポイントを押さえることで、オンボーディングは成功しやすくなります。ここでは、それぞれの手順に沿って具体的な進め方を解説します。
オンボーディングが完了する基準は企業によって異なります。そのため、自社独自のゴールを設定することが大切です。ゴールが明確になれば、ロードマップやマイルストーンなどを設定しやすくなります。
例えば、ソフトウェアの導入であれば、初期設定完了率をゴールにすると良いでしょう。「ユーザーの〇〇%がサポートなしで特定の機能を利用できるようになった状態」など、定量的なゴールを設定することも可能です。既に自社の商品・サービスを利用している顧客の活用方法を参考にすれば、自社独自のゴールを定義しやすくなるでしょう。
続いて、最終目標であるKGIと、中間目標にあたるKPIを設定します。目標を具体的な数値で示すことで、実績との差異を明確にでき、施策を評価できます。
オンボーディングの目的は、顧客の定着を促し、収益を最大化することです。例えば、次の指標をKGIとして設定すると良いでしょう。
KPIには、KGI達成までの中間指標を設定します。例えば、次の指標があげられます。
オンボーディングとして実施する施策を決めてアクションプランを策定します。まずはどのタッチモデル(手法)で施策を展開すべきかを決めましょう。一般的なタッチモデルの選定基準は次の通りです。
オンボーディング率を向上させるには、顧客の属性や状態に応じて複数のタッチモデルを組み合わせるのがポイントです。組み合わせることで各タッチモデルのメリットを活かしやすくなります。
施策の実施後は、KGIやKPIを参考に効果検証を行いましょう。継続的に施策を改善することでオンボーディング率が高まります。
数値目標を追うだけでなく、顧客からのフィードバックを収集して改善に活かすことも大切です。顧客の満足度は数値だけでは把握しにくいからです。顧客にヒアリングしたりアンケートを活用したりして、商品やサービス、サポート内容に関する評価を集めましょう。
カスタマーサクセスのオンボーディングを成功させるには、次の要素を施策に盛り込むことが重要です。
オンボーディングの過程で、顧客の抱える課題やニーズが変化するケースもあります。変化に対応できるように顧客と常にコミュニケーションをとり、状況を把握しましょう。
顧客と継続的にコミュニケーションをとれば、商品やサービスに対するフィードバックを収集しやすくなるのも利点です。得られたフィードバックはカスタマーサクセス全般の施策改善や、商品・サービスの品質改善、新製品の開発にも活かせます。
商品やサービスの導入直後は、顧客が疑問を抱えやすい段階です。そのため、フォローを迅速に行えなければ、顧客満足度の低下につながってしまいます。顧客の課題やニーズに素早く対応できるよう、事前にフォロー体制を整えておくことが重要です。
顧客へのフォロー体制として、可能であれば、カスタマーサクセス専門の組織を立ち上げると良いでしょう。次の体制を参考に組織を構築するのをおすすめします。
カスタマーサクセスに役立つツールを活用すれば、効率良くオンボーディングの施策を実施できます。IT技術が発展した現代では、ハイタッチ・ロータッチとテックタッチを組み合わせて実施する機会も多いため、ツールの活用は不可欠です。
カスタマーサクセスのオンボーディング向けの主なツールは次の通りです。
HubSpotの提供する「Service Hub」は、カスタマーサポートとカスタマーサクセスの両軸から顧客を支援できるツールです。
Markething HubやSales Hubなどと連携して顧客情報を一元管理できるので、一貫した顧客対応が実現します。また、AIを活用しながら顧客ヘルススコアやサービスの使用状況を把握することで最適なタイミングでのオンボーディング施策を実施可能です。その結果、顧客満足度が高まり維持率向上が期待できるため、収益拡大につなげられるでしょう。Service Hubについて詳しくはこちらを参考にしてください。
無料版から使えるHubSpotのカスタマーサービスツール Service Hub →
カスタマーサクセスにおけるオンボーディングは、さまざまな企業で実践されています。ここでは、特にオンボーディングに力を入れている3社の成功事例を紹介します。
アドビ株式会社(Adobe)では、PhotoshopやIllustratorなどのクリエイティブ商品を展開しています。同社は専門的なサービスを提供しているため、使いこなすにはある程度の知識やノウハウが必要です。そのため、製品導入直後の顧客が使いにくさを感じないよう、徹底したオンボーディング施策を行っています。
その一つが、10万時間以上のサポート経験を持つコンサルタントの在籍です。単に顧客からの問い合わせに回答するだけでなく、先行して顧客の課題を発見し、的確なアドバイスを提供できる体制が整っています。
また、導入から安定的な利用までの立ち上げ支援としての「プレミアサポート」も提供しています。顧客のビジネス課題やサービスの特性、他社事例を積極的に活用して支援することで、顧客が自立して運用できる仕組みを構築しています。
Wrike Japanが提供しているのが、業務の進捗管理やファイル共有などの機能が搭載されたプロジェクト管理ツールWrike(ライク)です。ガントチャートやカンバンボードなどでプロジェクトの現状を容易に把握できるのが特徴です。
Wrikeは類似製品に比べてオンボーディングの施策が充実しています。例えば、導入前に営業担当者が顧客のニーズや課題をヒアリングし、最適なプランの提案や製品デモを行います。また、対話型トレーニングやマニュアル動画、FAQ、コミュニティなどのコンテンツが統合されたサポートページを用意することで、セルフオンボーディングの仕組みも整えています。
Canva Pty, Ltd,が提供するCanva(キャンバ)は、オンラインのデザインプラットフォームです。多様なテンプレートをもとに、マウス操作のみでグラフィックデザインを行えます。
Canvaは画面上にガイドツアーが表示される仕様になっています。そのため、手順に沿って進めるだけで初心者でも目的のデザインを容易に作成できます。また、デザインの基礎知識が学べるブログやデザインに関するチュートリアルが用意されているため、セルフオンボーディングが可能です。
なお、HubSpotでは、カスタマーサクセスチームとオンボーディングチームは別の組織で構成されています。オンボーディングチームは、顧客が運用可能な状態になるためのサポートに集中して取り組める状態が理想だと考えているからです。オンボーディング期間は3か月で設定しており、完了したらカスタマーサクセスチームへ引き継ぎ、顧客の課題を解決し、成功していただくための支援を継続的に行います。
参考:HubSpotグローバル2位の導入支援担当者が実践している「CRM・MA導入の3ステップ」 (1/3):MarkeZine(マーケジン)
商品やサービスの導入直後は顧客が悩みや疑問を抱えやすい状態であり、伴走支援が欠かせません。オンボーディングによって早期に課題を解消できれば、自社の商品・サービスに価値を感じてもらうきっかけになり、定着につながります。
オンボーディングの手法はハイタッチ・ロータッチ・テックタッチに分かれ、具体的な施策は異なります。まずは顧客が置かれている環境や商品・サービスの利用状況などを参考に、どのような施策を展開するかを決めましょう。また、施策実施後は、定期的に効果検証と改善を行うことも大切です。
本記事でご紹介したオンボーディングの手法や取り組みのポイントを参考に、自社に最適な施策を検討してみてください。
HubSpotの無料のカスタマーサービスソフトウェアを使用して、サポート体制の拡大と顧客維持を促進
この記事をシェアする