この記事は16分で読めます
カスタマーサクセスは、SaaSビジネスの成長を左右する重要な取り組みです。顧客が自力でAI検索や比較を行う現在、マニュアル通りの受動的なサポートでは顧客満足度を維持しにくくなっています。
本記事では、SaaSビジネスにおけるカスタマーサクセスの役割や重要な理由、AI時代の変化、実践ポイントや成功事例を解説します。
SaaSにおけるカスタマーサクセスとは、能動的な伴走で顧客を成功へ導き、LTVを最大化する取り組みです。問題発生後に対応する受動的なサポートとは異なり、課題が顕在化する前に先回りで価値を提供するアプローチを取ります。SaaSのようなサブスクリプション型ビジネスとの親和性が高く、近年は事業成長を支える基盤として重要性が増しています。
カスタマーサクセスとカスタマーサポートは、目的とアプローチに明確な違いがあります。カスタマーサクセスは顧客の成功を能動的に支援し、課題が顕在化する前に先回りで価値を提供します。
一方のカスタマーサポートは、顧客からの問い合わせに対して受動的に対応する業務で、発生した問題への解決が中心です。
両者は対立する概念ではなく、相互に補完する関係にあります。短期的な問題解決を担うサポートと、長期的な成功支援を担うサクセスの両輪が揃うことで、顧客体験全体の質が高まります。
両者の違いを4つの観点で整理すると、以下の通りです。
| カスタマーサクセス | カスタマーサポート | |
|---|---|---|
|
目的 |
顧客の成功とLTVの最大化 |
問題の解決と顧客満足度の維持 |
|
アプローチ |
能動的(プロアクティブ) |
受動的(リアクティブ) |
|
主なKPI |
解約率・LTV・NRR・ヘルススコア |
一次解決率・応答時間・CSAT |
|
対応タイミング |
課題発生前 |
問い合わせ発生後 |
両者は役割が異なるため、組織として明確に切り分けて運用することで、それぞれの効果を最大化できます。
SaaSビジネスにおけるカスタマーサクセスは、他のビジネスモデルと比べて特に重要な位置を占めます。買い切り型のビジネスの場合は販売時点での取引が収益の主軸となりますが、SaaSは契約後の継続利用とアップセル・クロスセルが収益の中心となるためです。
SaaSは契約・解約のハードルが低く、1回あたりの売上も比較的少額に設定される傾向があります。そのため、長期利用と段階的な収益拡大の積み重ねが、事業全体の収益基盤を支えます。顧客の購買フェーズに応じた長期的な伴走支援が、ビジネスモデル上の構造として求められるのです。
このような特性から、SaaSビジネスではカスタマーサクセスが他のビジネスモデル以上に重要視されます。
カスタマーサクセスは、顧客のサービス利用ステージに応じて多面的な役割を担います。導入段階の支援から定着・拡張に至るまで、それぞれのフェーズで顧客のビジネス成功を支える業務が存在します。
導入支援(オンボーディング)とは、新規顧客に対してサービスの導入前後にサポートを行う業務のことです。顧客が自社の商品・サービスに対して理解を深め、自走できるように支援します。
【導入支援(オンボーディング)の主な取り組み】
商品・サービスの導入前の見込み客は、自社の潜在的な課題や適切な目的を明確にできず悩んでいる可能性があります。また、導入直後は操作や設定、各種機能の使い方で不満を抱えているケースも少なくありません。
導入支援によって顧客の課題を解決しニーズを満たすことができれば、顧客は商品・サービスの価値を感じて、長期的な関係構築が可能になるでしょう。
顧客ライフサイクルは、導入期を経た後、活用期へと移行します。顧客が商品・サービスの扱いに慣れはじめ、より効果的な活用方法を模索するフェーズです。この段階では、導入期よりも具体的で、かつ顧客の細やかなニーズに添う情報やコンテンツ、サポートを実施します。
【活用支援の主な取り組み】
活用支援によりサービスの運用効率が高まれば、顧客企業への定着化が期待できます。自社の商品・サービスが顧客にとって欠かせない存在になるため、後に続く拡大期へとスムーズに移行可能です。
顧客ライフサイクルでは、活用期の次に拡大期を迎えます。顧客が自社の商品・サービスを使って事業拡大を図るフェーズであり、アップセル・クロスセルの提案に適しています。
いずれも顧客単価の向上につながるため、SaaSビジネスにとってLTVを高める重要な施策です。
アップセル・クロスセルを提案する際は、契約更新に合わせた顧客へのフォローも行いましょう。目的達成に向けた進捗確認や振り返り、ROIの確認などを実施します。
顧客のサービス利用状況を定期的に確認し、把握することも大切です。解約の兆候や現状のサポートへの満足度を確認し、問題が生じていれば解消へ向けてフォローします。
利用状況を確認するには、解約率やオンボーディング完了率、セッション時間といったKPIを参考にすると良いでしょう。目標よりも実績が低い場合は、サービスの利用頻度が低下している可能性があります。また、ヒアリングなどを通じて、定性的な情報を参考にするのも有効です。
SaaSビジネスにおいてカスタマーサクセスを導入することは、単なるサポート体制の刷新にとどまらず、事業の収益性を高める直接的な戦略となります。ここでは、カスタマーサクセスの導入がもたらす主要な効果として、解約率の改善、LTVの最大化、顧客創出コストの最適化という3つの観点から解説します。
SaaSのカスタマーサクセスでは、先述した活用支援やアップセル・クロスセルなど、さまざまなアプローチで顧客満足度を高めていきます。これにより解約率(チャーンレート)の改善が期待できます。
顧客の課題や目標を理解して適切にサポートするには、カスタマーサポートや営業など他部門と連携して、多角的な支援をすることも必要です。
LTV(顧客生涯価値)とは、顧客が取引期間中にもたらす利益総額のことです。SaaSビジネスにおいて、継続利用による収益最大化を測るための重要な指標です。カスタマーサクセスにより顧客の成功体験を後押しし、満足度やロイヤルティを高めることで、継続利用(=LTV向上)につながります。
CPA(顧客創出単価)は、1件の顧客創出にかかった費用を示す指標です。
新規顧客を創出するためには見込み客の創出から営業活動まで多くのコストがかかるため、新規開拓に依存するほどCPAは高くなりがちです。
カスタマーサクセスにより既存顧客の解約率やLTVが改善されると、新規獲得に頼らずとも収益を安定させやすくなります。結果として事業全体のCPAのバランスが改善され、コストやリソースをより戦略的に配分できるようになります。
生成AIの普及により、顧客の情報収集行動が大きく変わりました。SaaS企業はその変化を踏まえ、カスタマーサクセスのあり方を見直していく必要があります。
AI時代において、顧客の情報収集行動は契約前から契約後まで高度化しています。ChatGPTやPerplexityなどのAIチャットツールを用いて、顧客は自力で課題分析や他社比較を行うようになっているためです。
実際に、HubSpotが2026年に実施した「カスタマーサービスに関する意識・実態調査」によると、顧客からの問い合わせ内容が「大幅に複雑化・高度化した」「やや複雑化・高度化した」と回答した方が27.3%ですが、能動的なフォロー対応を兼務している層に限ると42.5% 、生成AIを活用している層では46.8% に上ります。カスタマーサクセスを組織として推進している現場ほど、顧客からの問い合わせが高度化していると感じている実態がうかがえます。

見込み客は、AIに質問することで複数サービスの比較表を瞬時に取得し、契約後の顧客はAIに「より自社に合う運用方法」を相談するなど、自己解決の幅が広がっています。AI経由で得た情報を元に、契約済みサービスの「他社との優位性」をシビアに判断する顧客も増加傾向です。
このような環境下では、カスタマーサービス担当者がマニュアル通りの一般的な回答を提供しても「自分で調べたほうが早い」と評価されかねません。AI活用で顧客側の知識レベルが上がる一方、カスタマーサービス担当者にはより専門的な視点と、個別最適化された提案が求められるようになっています。
AI時代のカスタマーサクセスでは、「自分向け」の価値提供が新たな評価基準となります。AIで一般論や標準的な情報を容易に取得できるため、顧客が求めるのは「自社の状況に踏み込んだ具体的な提案」だからです。業界特性・組織規模・利用フェーズに応じたアドバイスができるかどうかが、カスタマーサービス担当者の差異化ポイントになります。
例えば、「業務効率化を目的に6か月前にサービスを導入した企業」に対して、単に操作方法を教えるのではなく、「過去半年間の利用ログから、貴社ではまだこの機能を活用しきれていないようです。競合他社の事例を踏まえると、この機能を活用すれば業務時間が週に3時間削減できる可能性があります」のように、ビジネス目標や過去の履歴から具体的な提案を行うことなどが挙げられます。
顧客の利用データや過去のやり取りを活用し、文脈に沿ったコミュニケーションを実現する仕組みづくりが、AI時代のカスタマーサービスには欠かせません。
AI時代のカスタマーサービスでは、業務効率化と顧客対応の質向上を両立させる仕組みが鍵となります。具体的な活用ポイントとHubSpotでの実装例を見ていきましょう。
AIを活用すれば、解約に至る前のシグナルを自動で検知し、先回りで対応できるようになります。利用頻度の低下、機能活用度の減少、サポート問い合わせの増加といった「解約シグナル」を、AIが利用ログから自動で読み取る仕組みによるものです。
ヘルススコアと連動した自動アラートを設計することで、カスタマーサービス担当者は優先度の高い顧客からアプローチできます。スコアが閾値を下回った顧客に対し、適切なフォローアップアクションを自動的にトリガーする運用が可能です。
リスクが顕在化しやすい60〜90日前に予測介入できれば、解約防止の成功率は大きく高まります。事後対応ではなく、データに基づいた先回り対応こそが、AI時代のカスタマーサービスの強みです。
たとえばHubSpotのカスタマーサクセス管理では、顧客の健全性スコアや利用状況を一元的に確認できる仕組みを提供しています。

リアルタイムの健全性アラートにより、解約リスクを早期に把握し、顧客ライフサイクル全体を通じて成長機会を特定できます。
AIエージェントを活用すれば、カスタマーサービス担当者は付加価値の高い業務に集中できるようになります。
単純な操作案内や一次対応をAIに任せ、担当者は戦略的な活用提案や複雑な課題解決に注力する体制を構築することがポイントです。AIと人それぞれの強みを活かした役割分担が、AI時代のカスタマーサービス運営の鍵となります。
HubSpotの「顧客対応エージェント 」は、ナレッジベースやドキュメントを基にした正確な回答を生成し、必要に応じて担当者へ自動引き継ぎを行うAIエージェントです。顧客対応エージェントを利用するチームでは、未導入のチームと比べてチケット解決時間が39% 短縮されているといった成果も出ています。
AIで定型業務を自動化することで、限られたリソースの中でも質の高いカスタマーサクセスを実現できるようになります。
他社の取り組みから、自社のカスタマーサクセスのヒントを得られます。ここではBtoB SaaS企業の成功事例を2社紹介します。

CS業務のデジタル化を支援するBtoB SaaSを提供するカラクリ株式会社は、HubSpotへの全リプレイスにより、データを起点とした能動的なカスタマーサクセス体制を構築したBtoB SaaS企業です。既存CRM/MAツールの使いづらさを背景に、検討開始からわずか2週間で全面切り替えを決定しました。
カスタマーサクセス部門では、HubSpotにアカウント情報・アクセス履歴・対応数を集約し、データを起点とした施策を拡充。HubSpot上のカスタムオブジェクトに自社サービスの利用データを格納することで、コンタクト別に最新の利用状況を分析できる仕組みを整備しました。
特徴的なのは、ワークフローを活用した能動的なアプローチです。最近アクセスしていないユーザーへ自動でサポートメールを送信したり、解約予兆を検知したらカスタマーサクセス担当者へアラートを送る運用などを実現。受動的な対応から、データに基づく先回りの支援へと進化させています。
SNSマーケティングツールを提供する株式会社SocialDogは、少人数体制での問い合わせ対応の省力化と顧客のセルフサーブ促進を目的に、HubSpot 顧客対応エージェントを導入したBtoB SaaS企業です。
導入前は、通常業務と並行して問い合わせ対応を行っており、繁忙期の対応遅れや品質のばらつきが課題でした。また、ヘルプ記事のどこをどの優先度で改善すべきかをデータで把握できず、改善サイクルが回せない状況にもありました。
導入後は、AIが回答できなかった質問を可視化する「ナレッジギャップ機能」を活用しながら週次で記事を修正する改善サイクルを確立。AIが一次対応を担い、テクニカルサポート担当者は複雑な問い合わせと品質改善に集中できる体制を整えました。その結果、2025年通年の累計自己解決率は90% 超を達成しています。
その他、カスタマーサクセスの成功事例はこちらの記事でも紹介しているので、あわせてお読みください。
カスタマーサクセスを組織的に機能させるには、段階を踏んだ設計が欠かせません。ここでは、既存のカスタマーサポート体制からカスタマーサクセスへ進化させる場合の主要なステップを順に紹介します。
カスタマーサポートからカスタマーサクセスへ進化させる第一歩は、現状の課題整理と目指す姿の明確化です。
まずは、解約率の推移、顧客の利用状況、問い合わせ内容の傾向、サポートチームの工数配分などを定量的に整理しましょう。そのうえで「3年後にどのような顧客体験を提供したいか」「どのKGI・KPIを追うべきか」を経営層と現場で議論することで、その後のペルソナ設計やツール選定の判断軸が定まります。
次に、対象とする顧客のペルソナと、追うべきKPIを設計します。
BtoBのSaaSビジネスでは業種・規模・利用フェーズで顧客課題が大きく異なるため、セグメントごとにハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの対応方針を切り分けます。KPIは、解約率・LTV・NRR・ヘルススコアなどから、自社の最重要課題に直結する2〜3指標を選定するアプローチが良いでしょう。
カスタマーサクセスを実現するうえで、ツール選定と顧客データ基盤の整備は核となる工程です。検討すべきは、CRM/カスタマーサクセス管理ツール、ヘルプデスク、AIエージェントの3つです。
既存のカスタマーサポートツールがある場合は、CRMとの連携可否を必ず確認しましょう。HubSpotのように単一プラットフォームで各部門のデータを連携できるツールなら、部門間の分断を解消しやすくなります。
ツール環境が整ったら、オンボーディングを含む運用プロセスを具体的に設計します。顧客が「価値を実感する瞬間」までの最短ルートを定義する工程です。
キックオフ・初期設定支援・トレーニング・定着化フォローまでをパイプライン化することで、担当者ごとの対応品質のばらつきを抑えられます。また、属人化を防ぐため、FAQやナレッジベースといったセルフオンボーディングの仕組み整備も並行して進めましょう。
最後のステップは、解約防止アラートの構築と、運用の継続的な改善サイクルの確立です。
設計したヘルススコアやKPIを「見るだけ」で終わらせず、具体的なアクションにつなげる仕組みが鍵となります。ヘルススコアが閾値を下回ったら自動アラートを発報し、解約シグナル検知時の対応プレイブックを事前定義しておきましょう。
月次でCSダッシュボードをレビューし、運用しながら継続的にチューニングする視点が大切です。
AIの進化により、顧客が今まで以上に自力で情報収集を行いやすくなった現在、カスタマーサービス担当者にはより専門的で個別最適化された価値提供が求められるようになりました。
リソースに限りがあるなかで質の高いカスタマーサービスを実現するには、AIで定型業務を効率化し、人は戦略的な業務に注力するという役割分担の設計が重要です。AIによる解約シグナル検知や一次対応の自動化、CRMを基盤とした顧客データの一元化を組み合わせることで、属人化やリソース不足を補いながら能動的な支援を実現できるでしょう。
HubSpotのService Hubは、CRMを基盤としたAI搭載のカスタマーサービスソフトウェアです。マーケティング・営業・サービス部門のデータを一元化し、顧客一人ひとりの状況に応じたパーソナライズされたアプローチを実現します。さらに、顧客対応エージェントと組み合わせれば、ナレッジベースを活用した一次対応の自動化と、複雑な問い合わせへの人的対応をシームレスにつなぐ体制が整います。
無料プランから始め、事業の成長に合わせて段階的に活用範囲を広げていくことも可能です。
SaaSの月次チャーンレートは3〜7%が平均的な水準とされています。顧客対象を成長企業など大規模アカウントに絞る場合は、1%以下が理想的な目標値です。ただし業界平均は事業フェーズや顧客セグメントによって異なるため、自社の状況に応じた目標値を設定するのが望ましいでしょう。
AI活用の主なメリットは、解約リスクの早期検知、個別最適化された提案、業務効率化の3点です。AIに一次対応や定型業務を任せることで、カスタマーサービス担当者は戦略的な業務に注力できるようになります。ただし「AIスコアの盲信」は避けるべきで、AIによる検知と人による判断・対応を組み合わせた運用が望ましいでしょう。
HubSpotの無料のカスタマーサービスソフトウェアを使用して、サポート体制の拡大と顧客維持を促進
この記事をシェアする