【HubSpot導入事例】部門横断で『読売』ブランドの価値提供を最適化する。デジタルへの挑戦が生み出した顧客接点の最前線~読売新聞グループ~
読売新聞東京本社 イノベーション本部マーケティングDXグループの皆様
左から 竹内勇希様、田中史生様、阿部絵理子様、中山穂香様、佐藤佳那様、古閑瑞菜様、山根秀太様、杉崎雄介様
読売新聞グループは、140年以上の歴史を持つ、読売新聞を中心とした総合メディア集団です。報道を軸に、スポーツ・文化・エンターテインメントなど、さまざまな分野に強みを持つ同グループですが、社内に散らばる顧客データの活用に大きな課題を抱えていました。
顧客の情報を集めて理解を深め、グループ全体のサービス体験をさらに向上させることを目的として発足したのが、今回お話を伺ったデジタルビジネス推進チーム(現・イノベーション本部マーケティングDXグループ)。HubSpotをはじめとするデジタルツールは、未来の組織のあり方を考えるヒントにもなっているといいます。
導入背景や実際のプロセス、導入後の変化から今後の展望まで、読売新聞グループのデジタルツール活用について具体的に教えていただきました。
変化する情報発信の市場。紙媒体ならではの利点をデジタルでも活かすために
読売新聞東京本社のデジタルビジネス推進チームは、社長直下の組織として2020年7月に発足しました。同社は「本業であるメディアの強化」「デジタルへの挑戦」「新しい収益源の確立」という3つの経営戦略を掲げていますが、デジタルビジネス推進チームは、これらの戦略を実現するためのデータ基盤の構築・運用と、全社を巻き込みながらその活用促進を担う組織です。
同社が経営戦略の一つとして「デジタルへの挑戦」を意思決定した背景には、情報発信の市場の変化がありました。
インターネットやスマートフォンの普及により、個人や小さなネットメディアも、不特定多数の読者に直接情報を提供することが可能になりました。広告ビジネスが拡大するにつれ、広告でお金を稼ぐために人の興味を引くような情報が優先されるようになっています。消費者も徐々に自分の興味・関心のあることにしか目を向けなくなり、社会の分断が生まれました。
デジタルビジネス推進チームのリーダーを務め、社会部司法記者クラブの記者や法務部の経験を持つ田中氏は、次のように話します。
「大きな社会構造の揺らぎの中で、我々は紙の新聞というビジネスモデルが破壊される危機に晒されていると感じています。新聞は、さまざまな情報をバランスよく紙面にパッケージングして提供することで、幅広い読者の支持を得てきました。その利点は今でも変わっていません。
正確・公正な情報を求める消費者にバランスよく良質な情報を提供すること。これは新聞の使命です。デジタルユーザーを含めた多くの人に新聞の良さを知ってもらうために、デジタルを活用した取り組みは不可欠でした。」
「顧客のデータを集める」「理解する」「届ける」がつながるデータビジネスを目指して
新聞は紙媒体のメディアで、販売店を通じて読者に届くという特徴があります。お客様窓口には日々読者の声が寄せられるとはいえ、「いま読者が求めているニーズや期待」を新聞社から把握しにくいことが課題です。加えて、同社には顧客のデータを収集するデータ基盤も存在しなかったといいます。
デジタルビジネス推進チームの最初の取り組みについて、田中氏が続けます。
「社内にあるデータをまとめて、誰でも活用できるようにするのが最初に取り組んだことです。それまでは各部署が、それぞれ付き合いのあるパートナー企業に業務委託するなどして別々にデータを収集。部署を越えてデータが共有されることもなく、部署内に眠ってしまうという、非常にもったいない状況が続いていました。
また、データ基盤は単なる『保管庫』ではなく、顧客とつながり収益につなげるためのマーケティングシステムとして活用できることが重要だと考えました。
顧客のデータを集め、顧客を理解し、顧客に価値を届ける。
この3つがつながって初めてデータビジネスといえるのではないでしょうか。」(田中氏)
また、デジタルツールの活用を経営戦略につなげることも強く意識したといいます。デジタルビジネス推進チームでマーケティングを担当する杉崎氏は、次のように話します。
「会社の経営戦略をどのように実現していくか、検討を重ねました。メディアの強化と新しい収益源の確保をデジタルで実現することになるので、それぞれの要素がすべて関係しています。」
顧客情報は「破棄が基本」だった
同社における顧客情報の取り扱いについて、田中氏は次のように話します。
「イベント告知はもともと、チラシやハガキが主流でした。それが申し込みフォームに変わっていった形ですね。
イベントが終わったら、集めた顧客のデータは『期限を決めて破棄』が基本でした。なんとかしてデータを活用する方法はないのだろうかという思いはありましたが、一括管理するソリューションがなく、顧客の個人情報を活用して大丈夫なのか?という不安も根強いため、活用に及び腰な部署が多いのが実情でした。
その後、HubSpotを導入し、法的なルールも検討したうえで各局に参加してもらうための仕組み作りを始めました。」(田中氏)
個人情報保護方針などのプライバシーポリシーを整理し、「ポリシーに沿っていれば安心して顧客のデータを預かれる」「そのデータを活用してもいい」と各部署に周知できたのが、2022年2月頃のことだったといいます。
現場で実際にツールを使用する社員に8つの製品を試してもらった
田中氏と共にデジタルビジネス推進チームを立ち上げた竹内氏は、システムエンジニアの立場から、社内に導入するデジタルツールを検討することになります。
「デジタルツールというのは、使う人がツール自体に好感を持たないと、なかなかその効果を発揮できません。そのため、すでにメールやLP(ランディングページ)を手掛けている社員に、『今よりも絶対いい』と思ってもらえるようなツールを選びたいという思いがありました。
まず、デジタルビジネスに関わる社員を20人くらい集めてデモを行い、アンケートを実施。ツールの価格については一切触れず、使いやすいかどうかだけを聞き、候補を3つまで絞り込みました。
さらに、デモアカウントを使ったメール作成の体験などを経て、最終的に14人中11人がHubSpotを選ぶという結果になりました。」(竹内氏)
HubSpotは「UIが圧倒的にいい」
実際にデモでHubSpotを使用した社員からは、次のような声が寄せられたといいます。
- 受け入れやすく、利用にあたっての障壁が低いと感じた
- フォントが大きくて見やすい
- 機能を示す日本語がわかりやすく、デモの時間だけでだいたい操作方法がわかった
- 導入後に困ったときも自社担当とコミュニケーションが取りやすい
現場にはさまざまなバックグラウンドを持つ社員が在籍しており、決して全員のITリテラシーが高いわけではありません。そのため、使いやすいツールであることは特に重要でした。
当初、候補の一つだった外資系のツールは日本語がわかりづらく、「頑張って覚えなければならない」という印象だったそうです。その点、HubSpotは「自分たちに寄り添うような日本語」で、感覚的に操作できることから、UIを高く評価する声が多くあがりました。
導入前に、HubSpotを使って実現したいことを部署別にヒアリングし、定期のメルマガをHubSpotに置き換えるところから活用を始めたといいます。
それまでのメルマガは開封率などのデータを取得できなかったため、努力と成果が見合っているのか判断しづらい状況でした。HubSpotの導入で可視化された開封率の低さに驚き、改善意識が高まったといいます。HTMLメール作成の容易さが格段に向上したおかげで、メールの反応率も高まりました。
デジタルツールの掛け合わせで「やりたいことができる」環境を実現
竹内氏は、HubSpotの主な活用方法について、次のように話します。
「顧客一人ひとりに向き合うという意味を込めて『yomiuri ONE』と名付けたデータ活用基盤は、BigQuery(ビッグクエリ)・BIツール・ HubSpotをシームレスに連携させ、データの価値を最大化するものです。
データを蓄積し、分析できるBigQueryはデータを切り出すのに必要です。まずはベースとなるデータを整理することで、いろいろな使い方ができるようになります。例えば、『よみうりランドに行った人』というデータをBigQueryから抽出、BIツールで可視化します。それをベースに広告を展開し、自社のマーケティングにつなげたいと思ったらHubSpotを使う。
BigQueryだけではマーケティングにつながらないので、それを横串でつなぐのがMAツールというわけですね。
例えば、主催するイベントの周知をする際に、過去同じようなイベントに参加された方への案内を優先してみようとか、新聞広告の効果測定をするためのアンケートを実施してみようとか。BigQueryという基盤があり、それを可視化してマーケティングにつなげる仕組みによって、やりたいことができるようになりました。」(竹内氏)
草の根的な社内活動でHubSpotの存在意義を伝えていった
「私たちのグループは、それぞれの部署の役割がはっきりと分かれているので、全社横断的な取り組みが難しいことはわかっていました。」と田中氏は話します。
「社内の各部署、グループ内のいろいろな会社へ実際に出向いて、HubSpotを使ってほしいと提案しました。上から押し付けるようなやり方ではうまくいかないので、各部署で実務に携わっている社員にも入ってもらい、その人に最初にやり方を教え、各部署で発表してもらうという方法を採用しました。」(田中氏)
また、マーケティング担当の杉崎氏は次のように話しました。
「全体最適をすると、個々の仕事もよくなることを社員に理解してもらうため、会社と個人の目的をそろえていくことを強く意識しました。
HubSpotのような特定のツールがあると、隣の部署と同じことをしていることが感覚的に理解でき、お互いの顧客を共有できるようになります。『このツールを使っていれば自然と会社の方針にも合う』ということもハードルを下げる要因でした。」(杉崎氏)
29部署400名以上があらゆる施策にHubSpotを活用
読売グループにおけるHubSpotの活用の幅は、さらに広がっています。
- チラシで告知していたイベントの案内をメールに置き換え
- イベントの申し込みに合わせて読売IDを取得
- HubSpotを使ってFAQサイトをリリース
HubSpotの運用開始後、グループ共通の会員IDである「読売ID」が前年比2倍以上のペースで増加するという素晴らしい成果も見られました。また、チラシからメールへの置き換えは、効率化につながっただけでなく、紙代・印刷代・輸送代といったコスト削減においても大きなインパクトを与えたといいます。
HubSpotの活用は社内にとどまらず、外部のパートナー企業にもアカウントを付与し、積極的な使用を勧めています。
導入前は、イベントを開催する際にパートナー企業が顧客のデータを集め、メールではセキュリティに不安があるためCD-Rなどに保存してわざわざ手持ちで運んでもらっていたそうです。集客の段階からHubSpotでイベントの情報を管理すれば、顧客のデータが最初からHubSpotに格納されるため、手間なく安全な運用が可能になります。セキュリティや権限コントロールを厳格かつ柔軟に設定できることも、大きな後押しとなりました。
HubSpotが「DXによる新たな仕事のやり方」の象徴として定着
同社ではHubSpotの活用が進み、「みんなでデータをためる」というフェーズに入っています。「DXひろば」と呼ばれる社内メディアにもHubSpotの利用方法を案内するページを開設し、誰でも使い方を学ぶことができる環境も整えました。
経営層も最近は「HubSpot」というワードを出すとすぐに理解できるそうで、HubSpotがDXによる新たな仕事のやり方の象徴として定着しつつあるといいます。
HubSpotは「読売グループ」が提供する顧客接点の最前線にいる
デジタルビジネス推進チームは、2023年6月から新設組織の「イノベーション本部」へと移り、新しいスタートを切りました。今後、さらなるデジタル化の推進を図るなかでHubSpotをどう活用していくのか、同社におけるデジタルツール活用の展望について話していただきました。
「読売グループにとって、HubSpotは顧客接点の最前線に位置する存在です。私たちが提供するさまざまなサービスをHubSpotでつなぎながら全体最適化し、次のレベルの取り組みにつなげていきたいと考えています。」(杉崎氏)
「HubSpotのカスタマーサポートの手厚さには非常に満足しており、HubSpotを使ってできることは、自分たちが思っている以上にまだまだあると期待させられます。一方で、
HubSpotを使用する社員が増え、影響が及ぶ範囲が大きくなっているので、周りのシステムとの連携も含めてHubSpotがきちんと機能するような仕組み作りの必要性を感じています。」(竹内氏)
「従来、システムというのは、会社がやりたいことに合わせて作り上げるものでした。しかし今では、システムが会社のあり方を決めることもあります。そのくらい、システムは組織にとって重要なものになっています。
今はまだ、HubSpotを全社的に活用するまでには至っていません。今後は、当グループの社員が一体となって顧客のデータを集め、マーケティングなどに活かしていきたいと考えています。HubSpotを通じて積極的に部署同士がつながれば、データ活用の幅はより広がるでしょう。HubSpotは、未来の組織を考えるうえでのヒントにもなっています。」(田中氏)