フライホイールとファネルの違い
「ファネルではいけないのだろうか」と疑問に思われている方もいらっしゃると思います。長い間、企業ではファネル型のモデルに基づいてビジネス戦略が組み立てられ、ある程度機能していました。しかし、マーケティングや営業の担当者も経営幹部も、期待したほどの成果が得られなかったのが実情です。既存顧客による紹介や口コミが営業プロセスに大きな影響を及ぼすようになった今、ファネルに弱点があることは否めません。それは、顧客を「成長のための推力」ではなく「事業活動の結果」として捉えているからです。ファネル型モデルの場合、顧客を創出しても、その顧客が自社の成長を後押ししてくれることは想定されていません。だからこそ、フライホイールが重要なのです。
フライホイールは、企業の成長にどのような推力が働いているのかを、取りこぼしなく1つにまとめて表現しています。
各チームの行動は、他のチームにも影響します。マーケティングチームからどのような情報が提供されるかによって、見込み客への営業プロセスにかかる時間は長くも短くもなります。また、営業チームがどう働きかけるかで、見込み客が顧客になってからの満足度や成果が左右されます。そして、顧客がプロモーターに転換するか、つまり同僚に自社を推奨してくれるか、それとも利用しないように警告するかは、サポートチームやカスタマー サービス チームの対応次第と言えるでしょう。
現在の顧客は、企業に問い合わせる前にB2Bの営業プロセスの57%を済ませています。そして、購入の意思決定時に参考にするのは、企業側が用意したマーケティング資料ではありません。第三者のレビューサイトや同僚からの推薦、口コミが従来よりも意思決定に大きく影響するようになりました。それに伴い、企業に対する全般的な信頼度は急速に低下しており、購買者の81%が「企業の提供しているアドバイスよりも家族や友人の推薦を信頼する」と回答し、55%が「以前に比べて販売元の企業を信用できなくなった」と回答しています。
これまでにないほどコミュニケーションの場が増え、大勢の人々と情報を交換できるようになった結果でしょう。ファネルは、顧客が製品について情報を得るプロセスをうまく表現していました。まずマーケティング資料を見つける(または受け取る)、詳細情報を入手するために営業担当者に接触する、そして購入するという流れです。
今日、購買者の意思決定プロセスは大きく変化しました。友人や知人にアドバイスを求め、ソーシャルメディアで企業に関するコメントを探し、レビューサイトで既存顧客の評価を確かめています。
従来のファネルでは、このような要因を説明することはできません。また、ファネルは直線的なので、優れた製品やカスタマーサービスによって生み出されるエネルギーや、プロセス上の障害によって起こる成長の遅れについても表現できませんでした。
フライホイールは、そうした推力や摩擦をまとめたメンタルモデルです。社内プロセスの摩擦を軽減すれば、フライホイールの回転速度が上がり、ひいてはビジネスの成長速度も向上できます。さらに、インバウンド思想をフライホイールに当てはめると、顧客に満足してもらうことの重要性がよく分かります。インバウンドの「Delight(満足してもらう)」段階は、次の「Attract(惹きつける)」段階の勢いを左右します。なぜなら、顧客がどのような対応を受けたかによって、見込み客の元に届く評判が変わってくるからです。
簡単に言うと、フライホイールでは、ビジネスのどの部分が急成長しているかを総合的に把握できるとともに、最大のチャンスが潜んでいる領域を明らかにすることができます。
ただし、ファネルが一切使用されなくなるという意味ではありません。組織の成長プロセスを表すモデルとしてはフライホイールが適切ですが、社内のさまざまな業務プロセスの効果を表す場合にはファネル型の図やグラフも引き続き使用されます。特定の業務領域のパフォーマンス向上にも、ファネル型の図が役立つかもしれません。このとき注意したいのが、ファネルで図示しやすいプロセスも、大局的に見ればフライホイールの一部であるということです。